上の写真は東側立面です。幅員11mの通りを挟んで住宅地と向き合っているため、見下ろしてしまう二階の窓には有孔折板を設け、通風採光を確保しつつ視線を遮っています。一階については、法面を活かした植栽帯があるため、人が直接接触しないことは見た目に明らかです。開口部を閉じてできた不気味で巨大な壁面で周囲の環境を威圧してしまうよりは、敢えて従業員の動きが外から分かるようにした方が良いと判断しました。
左の写真は下の写真とセットで見てください。昼間と夕景です。昼間は色彩と素材の質感、また有孔折板の作る陰影によって大きな壁面に表情を与えています。色彩は本社のあるドイツと日本の国旗にゆかりのある色を一つに再構成しています。
(撮影:上二枚共 GEN INOUE)
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右の写真は夕景です。ここは基本的に定時までで仕事が終了する会社ですが、夕方に明かりがつくと行燈の様な感じになります。下の写真は2階の有孔折板の屋内側を撮影したものです。有孔折板の内側は大会議室と廊下です。下の写真の左2つが会議室で右端が廊下の写真です。視線の相互干渉を和らげつつ採光通風を得るための工夫です。開口率は40%ですが一様ではありません。屋外側に出っ張っている方は板の部分が多く屋内側に凹んでいる方は孔が多くなっています。その中間はグラデーションになっています。このようにすることで、屋外側から見た時に山谷が強調されて、大きな壁面にヒューマンスケールの表情を与えています。
(撮影:右 GEN INOUE)
家具のデザインもしています。二人掛けの机を通常はロの字型に並べ大会議に対応していますが、レクチャー用に教室型に並べ直すこともできます。また、ここでの会議はノートPCを持ち込むため、LAN配線を隠せるように縦格子で足元を隠しています。完全な板で隠すことは考えませんでした。それともう一つ、中央の写真は有孔折板のある窓の内側に襖を設けています。これはプロジェクターを使用するときに少し暗くするためのものです。遮光性の精度は求められていなかったため、ブラインドのようなものでも良かったのですが、何の疑いもなく銀揉み太鼓貼りの戸襖にしました。
縦格子も戸襖もこのシチュエーションよりも住宅で目にすることの方が多い要素かもしれませんが、住宅だからこれオフィスだからあれというように、お決まりのことをするのは好みません。それは奇をてらうということではなく、常套手段だからという理由で何も考えずにある選択をするということに抵抗があるのです。元来日本人は既にあるものの本質をとらえることに優れていると私は思います。ですから私も固定概念には囚われず、既知の要素の未だ見ぬ活かし方をしたいと常日頃から思っており、その結果襖や縦格子が出てきたように思います。
(撮影:右,中央 GEN INOUE)